椎骨脳底動脈血行不全症 (ついこつのうていどうみゃくけっこうふぜんしょう)

強い耳鳴り・難聴・眩暈の訴えをされる頚部捻挫の被害者が、稀にいらっしゃいます。

椎骨動脈は鎖骨下動脈から分岐し第6頚椎から第1頚椎の横突孔を走行し、
頭蓋内に流入、内耳・小脳・脳幹等の平衡感覚や聴覚に影響を持つ部位に血液を供給しているのです。

 

交通事故による椎骨動脈の直接の損傷、周囲からの圧迫、あるいは動脈壁に分布して
血管の収縮・拡張を調整する頚部交感神経を損傷し、血液の流入先に血行障害を起こしたときは、
耳鳴り・難聴・眩暈が発生しても不思議ではありません。
本来は、椎骨動脈造影検査で狭窄や圧迫が確認されて、この病名が立証されたことになるのですが、
臨床では、被害者の訴えに眩暈、悪心、嘔吐、目のかすみ、上肢の痺れがあり、
首を回転、過伸展したときに、これらの症状が出現するケースで、
この傷病名が記載されることがあります。

椎骨動脈の血行障害は、動脈硬化による血管の狭窄、血栓による血管閉塞でも起こります。
軽度のものは先に説明した、バレ・リュー症候群でも、交感神経異常として認められています。

交通事故では、頚椎椎体の骨挫傷、横突起や棘突起の骨折など、
頚部に相当大きなダメージを受けたときに、この傷病名が予想されます。
通常の頚部捻挫で、椎骨脳底動脈血行不全症は考えられません。
椎骨動脈造影検査では、動脈の一部が細くなっている、造影剤が見えなくなる所見が得られます。

本症例では、脳神経外科と血管外科の専門医がタッグを組んで、診断、治療に当たります。
血行改善剤の投与、神経ブロック療法、ケースによっては、横突孔の開放術が検討されます。

自賠責調査事務所は、失調・眩暈および平衡機能障害が立証できれば、
3、5、7、9、12、14級の後遺障害等級を認定しています。

しかし、自賠責調査事務所の見解は、頭部外傷を原因として、
失調・眩暈および平衡機能障害等の症状が認められることであり、
限定した条件設定がなされています。

 

本症例は、先天性の形態異常、動脈硬化を原因とする血管腔の狭小化、
変形性頚椎症の場合、骨棘による圧迫等によっても発症します。

私の経験則では、ほとんどが、椎骨動脈の壁に分布する血管運動神経、
つまり交感神経の暴走を原因とするバレ・リュー症候群で、
椎骨脳底動脈血行不全症とは認められておりません。

 

椎骨脳底動脈血行不全症における後遺障害のポイント

1)椎骨脳底動脈血行不全症の立証は、神経内科における椎骨動脈造影検査で行います。

椎骨動脈の血流低下が立証されたときは、耳鼻科で失調・めまい・平衡機能障害の
検査を受けて、めまいなどのレベルを立証します。

2)失調・眩暈及び平衡機能障害の後遺障害等級

失調・眩暈及び平衡機能障害の後遺障害等級
3級3号 生命の維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために終身労務に就くことができないもの、
5級2号 著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力が極めて低下し一般平均人の4分の1 程度しか残されていないもの、
7級4号 中程度の失調または平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の 2 分の 1 以下程度に明らかに低下しているもの、
9級10号 一般的な労働能力は残存しているが、眩暈の自覚症状が強く、かつ、他覚的に眼振その他平衡機能検査の結果に明らかな異常所見が認められるもの、
12級13号 労働には差し支えがないが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの、
14級9号 眩暈の自覚症状はあるが、他覚的には眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないもので、単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの、

 

3)先にも説明していますが、自賠責調査事務所は、頭部外傷を原因とした失調・眩暈および
平衡機能障害を後遺障害の対象としています。

ところが、椎骨脳底動脈血行不全症は頚部の外傷であり、上記からは外れています。
本部稟議で協議の対象となりますが、非該当の結論も予想されます。

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