肺挫傷 (はいざしょう)

高所からの墜落、胸部挟圧などの外力が胸壁に作用して、肺表面の損傷はないものの、
肺の内部、肺胞、毛細血管が断裂して、内出血や組織の挫滅をきたすことがあります。

打撲では、青痣が残りますが、肺に痣=内出血ができた状態を肺挫傷と呼んでいます。

さらに、肺表面部の胸膜を損傷すれば、肺裂傷と呼ばれます。
肺裂傷では、裂傷部位から肺の空気や血液が漏れ、気胸や血胸となります。

交通事故では、電柱に激突、田畑に転落するなどで、胸部を強く打撲した自転車やバイクの運転者に
肺挫傷が認められています。

診断は、胸部レントゲン、CT検査で明らかとなります。

 

上記は、交通事故外傷による肺挫傷・肺裂創のCT画像です。
黒の矢印、すりガラス状に白っぽく見える肺は、肺挫傷をきたしている部位です。
黄色の矢印は、肺裂傷の部位から空気が漏れ、肺が萎縮しています。
 

軽症の肺挫傷であれば、多くが無症状で、気づかないまま治癒していることもあります。
つまり、呼吸の状態が保たれていれば、自然に回復するのです。
これは、青痣が、自然に消えて治ってしまうことと同じです。

通常の肺挫傷では、外傷から数時間の経過で、呼吸困難、頻呼吸、血痰、チアノーゼなどの
症状が出現し、これらに対しては、安静臥床、酸素吸入、肺理学療法の治療が行われています。
酸素吸入の持続で、喀出を促すことは効果的で、無気肺の予防に役立ちます。

十分な酸素吸入と、気胸や血胸に対する胸腔ドレナージを行っても、PaO2が80mmHg未満では、
気管挿管下に人工呼吸管理が開始され、重症例では、人工肺=ECMOの導入されることもあります。

広範囲の肺挫傷では、低酸素血症に基づく意識障害や血圧低下を合併し、
急性呼吸不全から死に至ることも報告されており、侮ってはなりません。

 

※チアノーゼ
動脈血の酸素濃度=酸素飽和度が低下し、爪や唇などが紫色に変色することです。
赤血球の中には、酸素を運搬するヘモグロビンという鉄と結合した蛋白質が含まれています。
正常の動脈血は、98~100%が酸素と結合し、酸化ヘモグロビンとなって循環しています。
このときの動脈血は赤色です。
酸化ヘモグロビンの割合が低下し、酸素と結合していないヘモグロビンの割合が増加すると、
爪や唇が紫色に変色し、この状況をチアノーゼと呼んでいます。

 

※喀出
気道内の血液や気管支分泌物を、咳とともに体外へ排出することです。

※無気肺
肺の中の空気が著しく減少することから起こる呼吸障害のことです。

※胸腔ドレナージ
気胸、開放性気胸、緊張性気胸、血胸、血気胸などの際に行われる治療法で、
胸腔内に胸腔ドレーンチューブを挿入、胸腔内に溜まった空気や血液を体外へ排出し、
収縮した肺を再び膨張させ、呼吸障害を正常に戻します。

※SpO2=経皮的動脈血酸素飽和度は、パルスオキシメーターで測定、%で表示します。

パルスオキシメーター

※PaO2、動脈血酸素分圧は、torr(トル)もしくはmmhgで表示します。
PaO2は動脈から直接、動脈血を採血して、血液ガス分析で測定、60㎜hg以下であれば、
呼吸不全と判断されます。
ちなみにSpO2 90%は、PaO2 60㎜hgとなります。

※PAO2、肺胞気酸素分圧は、肺胞にかかる酸素分圧であり、torr(トル)もしくはmmhgで
表示します。

※肺胞気動脈血酸素分圧較差 A-aDO2=(PAO2-PaO2)
この差が大きくなると、酸素化が悪化していることがわかります。
肺胞の酸素量と、動脈の酸素量の差が多きいとは、肺胞で酸素が血液内にとりこまれていないことで
あり、酸素化不全を示しています。

呼吸器内科では、主治医と看護師の間で、上記のやりとりがなされています。
言葉の意味を承知していれば、将来の後遺障害を予想することができるのです。


肺挫傷における後遺障害のポイント

1)肺挫傷の傷病名であっても、呼吸の状態が保たれていれば、1週間程度で自然に回復し、
後遺障害を残すことはありません。

2)呼吸器の障害の立証方法について
①動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果

動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による障害等級
動脈血酸素分圧 動脈血炭酸ガス分圧
限界値範囲内(37Torr~43Torr) 限界値範囲外(左記以外のもの)
50Torr以下 1、2または3級
50Torr~60Torr 5級 1、2または3級
60Torr~70Torr 9級 7級
70Torr以上 11級

 

②スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度

スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による後遺障害等級
スパイロメトリーの結果 呼吸困難の程度
高度 中等度 軽度
%1秒量≦35又は%肺活量≦40 1、2または3級 7級 11級
35<%1秒量≦55又は40<%肺活量≦60
55<%1秒量≦70又は60<%肺活量≦80

 

③運動負荷試験の結果
運動負荷試験には、トレッドミル、エアロバイクによる漸増運動負荷試験、6分・10分間歩行試験

シャトルウォーキングテスト等の時間内歩行試験、50m歩行試験などがあります。

自賠責保険調査事務所は、運動負荷試験の結果について、
以下の5つの事項について主治医に文書照会を行い、呼吸器専門の顧問医から意見を求めて、
呼吸障害の等級を高度・中程度・軽度に分類し、等級を認定しています。

①実施した運動負荷試験の内容
②運動負荷試験の結果
③呼吸機能障害があると考える根拠
④運動負荷試験が適正に行われたことを示す根拠
⑤ その他参考となる事項

①と②の結果を比較して②の数値が高いときは、②の結果で障害等級を認定しています。
①②の数値では後遺障害の基準に該当しないときでも、③の基準を満たせば、認定されています。

3)等級認定例
非該当、14級9号、11級10号、7級5号と千差万別です。

ここでは、7級5号の重症例を紹介しておきます。(他事務所での事例です)
被害者の方は、横断歩道手前で自転車に乗って信号待ちをしていました。
そこに、信号の変わり目で、自動車同士が出合い頭衝突し、1台の自動車が交差点で大きくスピンし、自転車に乗った被害者は、交差点後方の田畑にはね飛ばされたのです。

 

脳挫傷、急性硬膜下血腫、多発性肋骨々折、フレイルチェスト、肺挫傷の傷病名でした。
幸い、高次脳機能障害のレベルは、9級10号でしたが、広範囲な肺挫傷に伴う呼吸器障害を残し、
スパイロメトリー検査では、%肺活量が52.2でした。

※ %肺活量
実測肺活量÷予測肺活量×100=%肺活量
上記の計算式で算出されるもので、肺の弾力性の減弱などにより、換気量の減少を示す指標であり、
正常値は80%以上です。

また、運動負荷試験では、呼吸困難の程度は、一回の歩行距離は、歩行器では170m、杖では40mで
息切れし、呼吸困難の状態になる高度なレベルとの主治医所見などを回収しました。

結果、被害者の呼吸器には、高度の呼吸困難が残存し、「胸腹部臓器の機能に障害を残し、
軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 として第7級5号が認定、
先の9級10号と併合され、併合6級が認定されました。

 

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