腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア
ヘルニアとは、脱出していることを意味します。
交通事故でヘルニアと言えば、頚腰部の椎間板ヘルニアが多いです。
頭部外傷の死亡例は、ほとんどが脳ヘルニアで、外傷で出血、腫脹した脳が、
逃げ場を失って、延髄部に飛び出すことで死に至ります。
さて、今回は、手術の跡からの盛り上がり、腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニアについて
お伝えします。腹壁瘢痕ヘルニアとは、手術によって腹壁を支える筋膜に欠損部ができ、
ここから腹膜に包まれた内臓が突出するものです。
腹壁を雨戸、筋肉をサッシの窓、腹膜をカーテンに例えると、腸管が、緩んでいたサッシの窓と
雨戸を突き破って、カーテンごと、外に飛び出した状態のことを腹壁ヘルニアと言うのです。
嵌頓(かんとん)ヘルニアは、脱出した臓器が、脱出口で締め付けられた状態のことです。
締め付けられた状態が続くと、血液の流れが妨げられ、脱出した部分が壊死や壊疽に至ることがあり、放置すると、絞扼性腸閉塞=イレウスで死に至ります。
他の腹壁ヘルニアでは、外傷などによる腹壁の凹みに、内臓、主として、腸が入り込む、
滑り込む形で突出するもので、強い腹圧がかかると簡単に突出します。
嵌頓ヘルニアでは、緊急手術で嵌頓を解除します。多くは、手術で改善が得られています。
腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニアにおける後遺障害のポイント
1)ヘルニアでは、手術で修復することが常識です。
ほとんどは手術により完治しており、後遺障害を残すことはありません。
しかし、腹壁の欠損が広範囲で大きく、直接的な縫合が困難であって、手術後も、
腹帯の着用が必要となったものや、到底、修復が不可能で、オペの適応にならないものが、
後遺障害の対象となります。
2)腹壁瘢痕ヘルニアでは、腹部不快感、腹痛、腹部膨満感、亜イレウス症状などがあります。
①軽度の腹壁瘢痕ヘルニアを残すものは11級10号が認められています。
軽度のヘルニアとは、重激な仕事で、腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が
認められるものを言います。
②中等度の腹壁瘢痕ヘルニアを残すものは9級11号が認定されています。
中程度のヘルニアとは、常時、ヘルニアの脱出・膨隆が認められるもの、
または立位をしたときヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるものを言います。
3)その他のヘルニア
腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニア、および小腸の外傷により生じた隙間に嵌入する
内ヘルニアについては、ヘルニアが脱出する部位や原因は腹壁瘢痕ヘルニアと異なりますが、
腹部臓器の脱出という点で共通しており、①②に準じて、等級が認定されています。
最後に、横隔膜ヘルニアについてです。
外傷によって横隔膜に隙間が生じたときは、胸腔が陰圧となっており、
胃、腸などの腹腔内臓器が胸腔内に脱出し、横隔膜へルニアを発症します。
脱出した消化管の通過障害や脱出した腹部臓器により胸部臓器が圧迫を受けることで、
悪心、嘔吐、呼吸困難、心窩部痛、腹痛などの症状が出現し、オペが不可欠となります。
大多数は、オペで改善が得られており、後遺障害を残すことは考えられません。
なお、横隔膜ヘルニアによる呼吸機能の低下は、「外傷性横隔膜破裂」でお伝えしています。
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