踵骨骨折
踵骨骨折
踵骨骨折は大きく分類すると以下の2つです。
- 捻挫や反復動作の外力と靱帯の張力が作用して発症するもの
- 高所からの転落などで,踵を強く突いたときの外力により発症するもの
1は踵骨前方突起骨折で解説しました。
ここでは2転落などによる衝突・圧迫型の骨折を解説します。
踵骨(しょうこつ)とは,かかとの骨で,直接地面に接して体重を支えています。
足根骨の中で最も大きく不整な四角形であり,かかとの突出は,この骨の隆起によるものです。
踵骨は硬い皮質骨の殻のなかに,スポンジのような軟らかい骨,海綿骨が詰まっています。
例えるなら,和菓子のモナカの構造によく似ているのです。
高所からの転落で,モナカを踏み潰したように骨折し,踵骨上面の関節面が落ち込むのです。
結果として,踵骨の上に位置する距骨との関節が転位し,踵が幅広く高さが低く変形するのです。
骨折は主にかかとの後面からの衝撃で発症する陥没型骨折と,かかとの下面からの衝撃で発症する舌状型骨折があります。距骨の突起部が舌のように見えることから,このように呼ばれています。
上段が関節陥没型,下段は舌状型
骨折線は関節面におよぶことが多く,転位を残したままでは重度の機能障害を生じます。
踵骨全体像もケーキを押しつぶしたようにペシャンコになり,疼痛や扁平足などにより重篤な歩行障害を残すことが多く,治療が長期化し非常に厄介な骨折です。
下方に向かって骨折するもの,踵骨後方へ向かって水平に骨折するものがあります。
転位のないもの,転位が小さく徒手整復が可能なものは,4~5週のギプス固定となります。
一方転位があって徒手整復が困難なときは,手術による整復と固定が実施されています。
転位とは距踵関節部でずれることです。
この骨折の形状では,手術による整復と固定が実施されています。
骨癒合を完了しても,痛みや腫れが改善しないことが多く,骨癒合後のケアに苦労します。
疼痛や腫脹が消失するまで2~3年を要する症例も非常に多く見られます。
また,粉砕骨折や後距踵関節に骨折線がおよんでいる症例では,確実に後遺障害を遺残します。
外傷後関節症などで変形を生ずると強い疼痛や歩行障害が残存します。
このような際は,関節固定術の手術が選択されています。
踵骨骨折における後遺障害のポイント
踵骨骨折では,骨折部の疼痛が後遺障害の対象となります。
症状としては歩行時の痛み,坂道や凸凹道の歩行や長時間の立位が困難なこと,高所での作業が不可能というものが代表的です。
この状態が2年以上続くこともあり,症状固定の決断に頭を悩ませますが,骨癒合が完了した時点で,症状固定が望ましいと考えています。
XP・CTで骨折後の癒合状況を立証し,12級13号を獲得する方向へ動く必要があります。
- これ以外には,ベーラー角度の減少による外傷性偏平足があるかどうかを見ます。
ベーラー角は,20~40°が正常な角度となりますが,健側と比較して問題提起をしています。 - 距踵関節面に,僅かでも変形が認められるかどうか。
- MRIで,内外果の周囲の腱や靱帯,軟部組織に瘢痕性癒着が認められるか。
これらのチェックも怠りません。
配置転換もなく,就労復帰が遅れていたとしても,受傷から2年以上休業損害を払い続ける善良な保険会社はありません。
「痛いのは,気のせい」だと,強引な打ち切りが断行されています。
打ち切られるのであれば,予想される休業損害を含めた示談交渉をすればいいのです。
さすがに被害者の言い分をそのまま保険会社が丸呑みすることはありませんが,弁護士なら慰謝料の増額交渉で,実現を目指すことになります。
踵骨の骨折部にズディック骨萎縮が認められ,灼熱痛を訴え,車椅子状態で,就労復帰の見通しが,どうにも立たないことがあります。
これは単なる疼痛ではなく,複合性局所疼痛症候群,CRPSタイプⅡカウザルギーと言われるものです。
カウザルギーを丹念に立証して,後遺障害等級を獲得しなければなりません。
踵骨の粉砕骨折,後距踵関節に骨折線がおよんでいる重症例では,歩行時の疼痛にとどまらず,足関節に大きな可動域制限を残します。
通常は足関節の背屈と底屈の計測で立証は終了しますが,計測は,内返し・外返し・回内・回外まで行うのが理想的です。
さらにCTの3D撮影で,ベーラー角の計測による縦アーチの崩壊,距踵関節面の変形,MRIで,内外果の周囲の腱や靱帯,軟部組織の瘢痕性癒着を緻密に立証し,上位等級に結びつけます。
歩行時に足底板の装用を必要としているかどうかについても,後遺障害等級の獲得には重要なポイントとなります。
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