上腕骨近位端骨折
上腕骨近位端骨折
① 上腕骨近位端骨折について
上腕とは,肩関節からぶら下がる二の腕のことです。
上腕骨近位端とは,肩関節近くの部分です。
上腕骨近位端骨折は,骨折の部位と骨片の数で,重傷度や予後,治療法が決まります。
上記のイラストは,骨折の部位と骨片の数による分類を示しています。
医療分野においては,骨頭,大結節(だいけっせつ),小結節(しょうけっせつ),骨幹部(こっかんぶ)の4つに区分されています。
交通事故では,肩を地面に打ちつけることで骨折するケースが多いです。
高齢者では転倒などの軽い外力により,手をついただけで骨折に至ることが多いです。
上腕骨近位端骨折は,股関節部の大腿骨近位端骨折,手関節部の橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ),脊椎圧迫骨折と並び,高齢者に多い骨折の一つです。
その背景には,骨粗しょう症の存在があります。
前面右 後面右 外側
上腕骨の大結節,小結節は,上腕骨骨頭部で肩関節を構成している部分ですが,右前面図で説明すると,上部左側の小さな盛り上がりが小結節,左上部の大きな盛り上がりが大結節です。
左図は上腕骨が肩甲骨の関節窩に衝突,大結節が骨折したものです。
右図は,大結節が肩峰に衝突,骨折したものです。
棘上筋の牽引により大結節が剥離骨折したものです。
② 上腕骨近位端骨折の治療方法について
骨頭でズレのない場合は,3週間の三角巾固定で十分です。
転位(=ズレ)が認められるときは,X線透視下に徒手整復を実施,4週間のギプス固定を行います。
脱臼を整復すれば骨折も整復されることが多いのです。
大結節では,転位(=ズレ)が軽度でも肩関節の炎症を起こしやすく,皮膚の上かKワイヤーやラッシュピンで固定するのが主流です。
小結節,骨幹部では,いずれも観血的整復固定術を行います。
髄内釘やプレート固定が実施されます。
③ 症状固定時期について
受傷から半年を超えたところで症状固定を行い,後遺障害等級申請に進むケースが多いです。
後遺障害は肩関節の機能障害で,12級6号,10級10号の後遺障害等級が認められます。
(12級6号 一上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に障害を残すもの)
(10級10号一上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に著しい障害を残すもの)
④ 予想される後遺障害等級について
上腕骨近位端骨折では,肩関節の機能障害,つまり可動域制限と骨折部の痛みが後遺障害の対象となります。
部位 | 主要運動 | 参考運動 | |||||
肩関節 | 屈曲 | 外転 | 内転 | 合計 | 伸展 | 外旋 | 内旋 |
正常値 | 180° | 180° | 0° | 360° | 50° | 60° | 80° |
8級6号 | 20° | 20° | 0° | 40° | |||
10級10号 | 90° | 90° | 0° | 180° | 25° | 30° | 40° |
12級6号 | 135° | 135° | 0° | 270° | 40° | 45° | 60° |
機能障害では,8級6号,10級10号,12級6号の後遺障害等級が認められます。
(8級6号 一上肢の 3 大関節中の 1 関節の用を廃したもの)
(10 級10号一上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に著しい障害を残すもの)
(12級6号一上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に障害を残すもの)
痛みの神経症状では,12級13号,14級9号の後遺障害等級が認められます。
(12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの)
(14級9号 9 局部に神経症状を残すもの)
小結節,骨幹部で転位の大きいものは,骨頭壊死を発症する可能性が高く,上腕骨頭が壊死すれば,人工骨頭置換術が行われます。
骨粗しょう症の進んだ高齢者では,高頻度に壊死が懸念されます。
最近,同部位を粉砕骨折した高齢者女性で,人工骨頭置換術を行い,10級10号が認定されました。
⑤ 後遺障害のポイント
医学的に,転位(=ズレ)が認められない骨折の場合,治癒することが多く,痛みや可動域制限といった後遺障害は残りません。
それゆえ,いくら自覚症状として痛みや可動域制限といった後遺障害が残っていたとしても,医学的に骨の不癒合を立証できなければ,機能障害の後遺障害等級は認められません。
したがって,傷病名が上腕骨近位端骨折であり肩関節の可動域制限があるからといって,安易に機能障害の後遺障害等級が認められると予想することは適切ではありません。
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