上腕骨骨幹部骨折

上腕骨骨幹部骨折

 上腕部,長管骨(ちょうかんこつ=いわゆる「二の腕」の骨)の中央部付近の骨折を骨幹部骨折(こっかんぶこっせつ)と言います。
交通事故では,バイクで転倒し,手や肘をついたとき,転落などで直接に上腕の中央部に外力が加わって発生しています。

① 腕骨骨幹部骨折の種類

 このような直達外力(ちょくたつがいりょく=衝撃がそのまま骨に伝わること)で骨折したときは,横骨折(おうこっせつ=棒を折った時のように,真っ二つに折れること)が多く,外力が大きいと粉砕骨折(ふんさいこっせつ=骨がバラバラに砕けてしまうこと)になります。
手をついて倒れたときは,螺旋骨折(らせんこっせつ=骨が螺旋状に折れること)や斜骨折(斜めに折れること)となります。

② 骨神経麻痺(とうこつしんけいまひ)

 上腕骨の骨幹部骨折は,関節部に遠く,一般的に関節の機能障害を伴わないことが大半です。
他方,上腕骨骨幹部骨折では,橈骨神経麻痺を合併することが高頻度であり要注意です。
橈骨神経は指を伸ばしたり,手首を手の甲側に起こした時に使われる神経です。
橈骨神経は,上腕骨々幹部を螺旋状に回っているので,骨片により圧迫を受けて,麻痺が発生しやすくなります。骨折部には,はれ,痛み,皮下出血,変形,圧痛,異常な動きが現れます。

 骨折部の上下の筋肉の力で骨片はずれて短縮します。
橈骨神経麻痺が起こると,下垂手(かすいしゅ)といって手首を動かすことが出来ず,指が伸ばせなくなります。
さらに,腕を回旋して手のひらを上へ向ける回外運動(かいがいうんどう)もできなくなります。
XP撮影で骨折の位置と骨折型を確認すれば診断は容易です。
同時に神経麻痺の有無も調べます。

 治療は,観血術(いわゆる手術)によらない保存療法が原則です。
完全骨折でずれがあるときは,吊り下げギプス法といってギプスを骨折部のやや上から肘を90°にして手まで巻き,包帯を手首に付けて首から吊るします(上記イラスト参照)。
神経麻痺は一過性で回復を期待できることが多く,まず骨折を保存的に治療しつつ回復を待ちます。
回復の状況は針筋電図や神経伝導速度などの検査を行って検証します。

③ 骨神経の構造

 橈骨神経麻痺についてもう少し掘り下げます。
腕枕を長時間したとき腕が晴れることがあるそうですが,これは一過性の橈骨神経麻痺といわれています。
橈骨神経は頚椎(けいつい)から鎖骨(さこつ)の下を走行し,腋の下を通過して,上腕骨の外側をぐるりと回り,外側から前腕の筋肉,伸筋(しんきん=関節を伸縮させる筋肉)に通じています。
橈骨神経は手の甲の皮膚感覚を伝える神経なのです。 橈骨神経の障害が起こる部位は3つあります。
腋の下,上腕骨中央部,前腕部です。
交通事故では上腕骨骨幹部骨折,上腕骨顆上骨折(じょうわんこつるいじょうこっせっつ)等で発症しており,上腕中央部(二の腕の真ん中辺り)の麻痺が多いのが特徴です。
症状としては,手のひらは異常がないのに手の甲が痺れます。
特に手の甲の親指・人差し指の間が強く痺れます。
手首を反らす筋肉が正常に働かないので,手関節の背屈(はいくつ=手のひらを上下すること)ができなくなり,親指と人差し指で物をうまくつまめなくなります。
手は下垂手(かすいしゅ:手がだらんとさがること=drop hand)変形をきたします。

 橈骨神経の支配領域は,親指~薬指の手の甲側なのでこの部位の感覚を失います。

④ 橈骨神経麻痺の診断と治療

 診断は,上記の症状による診断や,チネル徴候などのテストに加え,誘発筋電図も有効な検査です。
チネル徴候テストとは,患部(手首あたり)を打腱器(だけんき)で叩き,その先の手や足に電気が走ったような痛みを発症するかどうかの神経学的検査法です。Tinel徴候,チネルサインとも呼ばれています。
治療ですが,圧迫による神経麻痺であれば自然に回復していきます。
手首や手指の関節の拘縮(こうしゅく=関節が固まって動かなくなってしまうこと)を防止する観点からリハビリでストレッチ運動を行います。
カックアップ装具やトーマス型の装具の装用や低周波刺激,ビタミンB12の投与が行われます。
装具はこちらのHPページに載っています。

⑤ 末梢神経の断裂

 稀には末梢神経(まっしょうしんけい)が骨折部で完全に断裂していることがあります。
末梢神経の断裂となると,知覚と運動は完全麻痺状態となり,観血術で神経を縫合することになります。
手術用の顕微鏡を使用し,細い神経索を縫合していくのですから手の専門外来のある病院で手術を受けることになりますが,術後は不良です。

上腕骨骨幹部骨折における後遺障害

① 予想される後遺障害等級

 粉砕骨折では,偽関節(ぎかんせつ=折れた骨を修復させる機能が,修復している途中で停止してしまうこと)で8級8号の可能性があります。
また,保存療法では,上腕骨の変形で12級8号が見込まれます。
しかし,一般的な横骨折では,骨折の形状と骨癒合(こつゆごう=骨のくっつき具合)を検証しなければなりませんが,偽関節や肩,肘の機能障害として後遺障害を認められる可能性は低いです。

 8級8号= 一上肢に偽関節を残すもの , 12級8号= 長管骨に変形を残すもの

② 橈骨神経断裂による橈骨神経麻痺と診断された場合の注意点

 橈骨神経の断裂による橈骨神経麻痺が認められるときは,先に神経縫合の手術をするよりも手術の前に症状固定をし,後遺障害の申請をしなければなりません。
なぜなら神経縫合術で完全に治癒することが期待できないからです。

 完全な下垂手では,足部の腓骨神経麻痺と同じで,手関節の背屈(はいくつ=手のひらを上向きに曲げること)と掌屈(しょうくつ=手のひらを下向きに曲げること)が不能となり,8級6号が認定されます。
不完全な下垂手でも10級10号が見込まれます。

 8級6号=一上肢の 3 大関節中の 1 関節の用を廃したもの, 10級10号=一上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に著しい障害を残すもの

 完全な下垂手が,神経縫合術で不完全な下垂手に改善(つまり8級6号相当のものが10級10号に下がる)ても,日常生活の支障に大きな違いはありません。
それにも関わらず後遺障害慰謝料が減額されてしまいます。

 ただ,交通事故において橈骨神経が完全断裂するケースは少ないようです。

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