角膜穿孔外傷(かくまくせんこうがいしょう)
交通事故では、バイクの運転者が転倒した際に、眼に対する強い打撲や、
ガラスやプラスティック片、金属片などが、目に突き刺さることで発症しています。
自動車事故であっても、横転、崖下落下などでは、フロントガラスや眼鏡の破損により、
高い頻度で発生しており、交通事故ではありませんが、草刈り作業中の鉄片飛来でも多発しています。
飛来異物、裂傷などにより、眼球に穿孔創=孔が開いた外傷を角膜穿孔外傷呼んでいます。
眼球に穿孔を生じると水晶体や硝子体、網膜、脈絡膜などの眼内組織が損傷し、
重い合併症を生じることがあります。
※涙腺 | 一定量の涙を常に分泌しています。 |
※虹彩 | 瞳孔の散大筋、括約筋を有し、自律神経がコントロール、カメラの絞りに相当、明暗により眼に入る光の量を自動的に調節しています。 |
※角膜 | 黒目を覆う透明な膜で、光線の入口です。 |
※水晶体 | カメラのレンズに相当、毛様体と連動して調節の作用を受け持っています。 |
※睫毛 | カメラのシャッターに相当、、眼球を保護し、涙、涙液膜を作っています。 |
※結膜 | 眼球の露出部を保護し、眼球運動を容易にしています。 |
※硝子体 | 眼球の大部分で、ゲル状の透明な物質、光を透過させています。 |
※視神経 | 視細胞の軸索突起の集合体で、脳の視中枢に電気信号を伝達するケーブルです。 |
※毛様体 | 緊張と弛緩により、水晶体の厚さを調整、遠近の調節を行っています。 |
※網膜 | カメラのフィルムに相当、視細胞で光を感じ、電気信号で脳に伝達しています。 |
※脈絡膜 | カメラの暗箱に相当、網膜に栄養を補給しています。 |
※強膜 | カメラのボディに相当、角膜と共に眼球を形成する外膜です。 |
※中心窩 | 眼底網膜の中で、最も明視できる部分です。 |
受傷直後から、眼の疼痛、角膜損傷、前房・硝子体出血、硝子体混濁、低眼圧などを原因とした
急激な視力障害の症状が現れます。
穿孔外傷では、全て、神経眼科の専門医による治療が必要となります。
点眼麻酔後に、静かに開眼させると、角膜あるいは強膜に穿孔創が認められます。
周囲には出血が認められ、大裂傷では虹彩や硝子体などの眼内組織が創にはみ出しています。
虹彩や脈絡膜が眼外に飛び出したときは、黒褐色の組織が創口に付着しているのが見られます。
先端が鋭いモノが、眼に突き刺さる、また金属の破片が欠けて眼の中に飛び込むと、
角膜を突き抜けて眼の奥に深く突き刺さることもあります。
解説していても、眼が痛くなる悲惨な例ですが、交通事故は不可逆的損傷であり、あり得るのです。
眼内異物が疑われたときは、異物を発見する必要から、超音波検査、XP、CTなどの
画像診断が実施されています。また眼内組織の損傷レベルを知るために、細隙灯顕微鏡検査、
眼底検査などの一般的な眼科検査以外に、超音波検査、ERG検査なども行われています。
※細隙灯顕微鏡検査 (さいげきとうけんびきょうけんさ)
細隙灯顕微鏡によりスリットランプを当てて眼球を観察する生体検査で、視力、眼圧、
眼底とともに、基本的かつ重要な検査です。
検査は、細隙灯というスリットランプからの細い光で眼球の各部を照らし、それを顕微鏡で
拡大して見分、結膜、涙点から角膜、前房、虹彩、瞳孔、水晶体、硝子体などの組織を観察し、
肉眼では分からない眼球内の異常を見つけ出します。
眼内異物は除去しなければならず、全例で、入院下で手術が実施されています。
穿孔創、裂傷は縫合がなされます。
外傷性白内障や硝子体出血、網膜病変など、眼内組織の損傷に対する治療は、
損傷レベルで異なりますが、複数回の手術を必要とするものもあります。
また外科的治療と並行して、感染予防のために抗生剤と、炎症を抑えるための副腎皮質ホルモン薬、
さらに角膜を強化し保護するためのビタミンB12の点眼や投与が開始されます。
角膜の傷に細菌、緑膿菌、肺炎双球菌、ブドウ球菌などが感染、これを放置すると、
角膜白三妊=角膜に強い滴りが出現、匐行性角膜潰瘍となり、著しい視力障害を起こします。
眼内異物でも、金属片は磁石で取り出すこともできますが、非磁性異物となると、
それが目の奥に突き刺さっていると、摘出で目の組織を傷つけることがあり、手術が困難となります。
視力低下の後遺障害を残すことになります。
細菌感染では、角膜や眼球内が化膿、全眼球炎に進行することもあります。
そうなると、最悪では、眼球内容除去術が選択されることになり、1眼の視力を失います。
角膜穿孔外傷における後遺障害のポイント
本件では、眼球の障害による視力の低下が後遺障害となります。
視力に関すること | |
1級1号 | 両眼が失明したもの、
視力の測定は万国式試視力表によることとされています。失明とは眼球を摘出したもの、明暗を判断できないもの、ようやく明暗を区別できる程度のものを説明しています。 |
2級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの、
この場合の視力とは矯正視力のことを説明しています。 平成14年4月からコンタクトレンズによる矯正も認められるようになりました。 |
2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの、 |
3級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの、 |
4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの、 |
5級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの、 |
6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの、 |
7級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの、 |
8級1号 | 1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの、 |
9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの、 |
9級2号 | 1眼の視力が0.06以下になったもの、 |
10級1号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの、 |
13級1号 | 1眼の視力が0.6以下になったもの、 |
視力障害では、頭部外傷による視神経損傷と、眼球の外傷を原因とするものに大別できるのですが、
ここでは、眼球の外傷を原因とするものに限定して説明を加えます。
1)視力低下の立証について
視力は、万国式試視力表で検査します。
等級表で説明する視力とは、裸眼視力ではなく、矯正視力のことです。
矯正視力とは、眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズ等の装用で得られた視力のことですが、
角膜損傷などにより、眼鏡による矯正が不可能で、コンタクトレンズに限り矯正ができるときは、
裸眼視力で後遺障害等級が認定されています。
失明とは眼球を失ったもの、明暗を区別できないもの、ようやく明暗を区別できるもの、
つまり矯正された視力で0.01未満を言います。
両眼の視力障害は、等級表の両眼の項目で認定します。
1眼ごとに等級を決めて併合は行いません、この点、注意が必要です。
例外もあります。
1眼の視力が0.6、他眼の視力が0.02の場合は両眼の視力障害として捉えれば9級1号となりますが、
1眼の視力障害とすれば、8級1号に該当します。
このケースでは8級1号を認定しています。
イラストは手動弁と指数弁を表示しています。
手動弁とは、被害者の眼前で手を上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力を言います。
指数弁とは、被害者に指の数を答えさせ、距離によって視力を表します。
1m/指数弁=視力0.02、50cm/指数弁=視力0.01に相当します。
暗室において被害者の眼前で照明を点滅、明暗を弁別させる光覚弁(明暗弁)がありますが、
いずれも失明の検査となります。
2)視神経損傷と、眼球の外傷の立証について
眼の直接の外傷による視力障害は、前眼部・中間透光体・眼底部の検査で立証します。
スリット検査
直像鏡
前眼部と中間透光体の異常は、スリット検査で調べます。
眼底部の異常は、直像鏡で検査します。
視力検査は先ず、オートレフで裸眼の正確な状態を検査します。
例えば、水晶体に外傷性の異常があれば、エラーで表示されるのです。
その後、万国式試視力検査で裸眼視力と矯正視力を計測します。
前眼部・中間透光体・眼底部に器質的損傷が認められるとき、つまり、眼の直接の外傷は、
先の検査結果を添付すれば後遺障害診断は完了します。
これらで明らかな異常所見が認められないときは、
電気生理学的検査、ERG(electroretinogram)を受けなければなりません。
ERG
調査事務所は、明らかに客観的な他覚所見が取れることを理由に、この検査結果を
最も重要視しています。
なぜか?
実際に視力が悪いのに良く見せようとする嘘は、見破られますが、実際は良く見えているのに、
見えませんとなると、見破れないのです。
ERGは網膜電位と訳すのですが、網膜に光刺激を与えたときに現れる網膜の活動電位を
グラフにして記録したもので、当然に、ごまかしは全くできません。
最後に、視覚誘発電位検査、VEP(visual evoked potentials)です。
これは眼球の外傷ではなく、視神経損傷が疑われるときの検査で、網膜から後頭葉に至る
視覚伝達路の異常をチェックします。光刺激によって後頭葉の脳波を誘発し記録します。
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