醜状(しゅうじょう)障害
以下の5つに絞って、後遺障害のポイントを解説していきます。
1)男女差を違憲とした新基準
2)部位別後遺障害認定基準
3)申請のタイミング
4)後遺障害診断書、記載の要領
5)他の認定基準との比較
醜状障害における後遺障害のポイント
1)男女差を違憲とした新基準について
「顔面の醜状痕に男女差を認めることは、男女平等を定めた憲法に違反する。」
2010年5月27日、京都地裁は、労災事故で顔や頚部に大火傷を負った35歳の男性に対して、
女性よりも後遺障害等級が低いのは男女平等を定めた憲法に反するとの、
違憲判断を示し労災保険の給付処分を取り消しました。
2010年6月10日、厚生労働省は、この違憲判決を受け入れ、控訴しないことを決定、
64年ぶりに醜状障害の等級認定基準は見直されることになりました。
①新基準
自賠責保険 醜状障害の新認定基準 | |
等級 | 醜状障害の内容 |
7 | 12 外貌に著しい醜状を残すもの、 |
9 | 16 外貌に相当程度の醜状を残すもの、 |
12 | 13 外貌に醜状を残すもの、
14 女性の外貌に醜状を残すものは、削除されました。 |
14 | 3 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの、
4 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの、 10男性の外貌に醜状を残すものは、削除されました。 |
醜状障害は、2010年6月10日に京都地裁の違憲判決が確定しており、男女間格差は否定され、
2011年5月2日、政令第116号により、以下の修正が加えられました。
①別表Ⅱ7級12号の「女子の外貌」を「外貌」に改めること、
②別表Ⅱ9級16号を9級17号に改め、9級16号は、「外貌に相当程度の醜状を残すものとすること、
③別表Ⅱ12級14号の「男子の外貌」を「外貌」に改め、14級15号を削除すること、
④別表Ⅱ14級10号を削除すること、
この政令は公布日=2011年5月2日から施行し、自動車損害賠償保障法施行令の規定は、
2010年6月10日以降に発生した自動車の運行による事故について適用する。
10年も前ですが,2010年6月10日以前の事故日であれば、新基準の適用はありません。
遡及適用は、2010年6月10日以降に発生した事故日の被害者に限定されており、
2010年6月10日以前の事故日であれば、12級14号、14級10号の認定となります。
自賠責保険に異議申立を行っても、なんの効果も得られません。
地方裁判所に訴訟を提起して争う事案となります。
②外貌に著しい醜状を残すものは、7級12号?
外貌の著しい醜状とは、頭部では手のひら大以上の瘢痕が残ったとき、
頭蓋骨に手のひら大以上の欠損が残ったときをいいます。
手のひらとは、指の部分を除いた手の面積で、大小の違いがありますが、被害者の手のひらの
面積と比較して、等級が認定されています。
顔面部では、鶏卵大以上の瘢痕・5cm以上の線状痕、10円硬貨大以上の窪みを残したときは、
7級12号に該当します。
耳殻軟骨部の2分の1以上の欠損、
鼻軟骨部の大部分を欠損したときも、著しい醜状に該当します。
③外貌に相当程度の醜状を残すものは、9級16号相当
新基準で新たに設定された等級ですが、答申では、「外貌に相当な醜状を残すものには、
現在、外貌の著しい醜状として評価されている障害のうち、醜状を相当程度軽減できると
される長い線状痕が該当する。」とあり、どうやら、線状痕が狙い撃ちにされています。
これまでは、3cm以上の線状痕が後遺障害等級の対象であり12級が、5cm以上となれば7級が
認定されていましたが、答申では、醜状を相当程度軽減できるとされる長い線状痕は、
9級と認定したいようです。「相当程度軽減できるとされる長い線状痕?」それにつけても、
曖昧な表現です。
刃物でで切られたような,ケロイド状の線状痕であれば、7級12号となって、
それ以外の線状痕、5cm以上であれば、9級16号と判断しています。
④外貌に醜状を残すものは、12級13号相当
頭部では鶏卵大以上の瘢痕、または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損、顔面部にあっては10円銅貨以上の
瘢痕または3cm以上の線状痕、頚部では鶏卵大面積以上の瘢痕で人目につく程度以上のものであり、
12級13号が認定されます。
頭蓋骨に鶏卵大の欠損が認められても、この部分に人工骨がはめ込まれていれば、
等級の対象となりません。
⑤2個以上の瘢痕や線状痕?
交通事故では、顔面に複数の醜状痕を残すことも予想されるのですが、そんなとき、
自賠責保険の運用規定では、「2個以上の瘢痕または線状痕が相隣接し、
または相まって1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈するときは、
それらの面積、長さなどを合算して認定する。」と規定されています。
ところが、相隣接する、相まってについては、具体的な記載がなされておらず、調査事務所の
判断にもバラツキがあって、トラブルことが多いのです。
醜状痕の後遺障害認定は上記の醜状が存在することが前提ですが、さらに他人をして醜いと
思わせる程度、人目につく程度以上でなければならないとされています。
大変危険と思うのは、運用基準の、「他人をして醜いと思わせる程度、つまり、人目につく
程度以上のもの?」 この部分であり、ここには、調査事務所の担当者の主観が入ります。
男女に関係なく、人間の顔は多彩です。
例えば,「イケメンなら目立つ線状痕が、あなたに限っては目立たない」は事実として
あるのです。
そこで、調査事務所は醜状痕の認定申請を行った被害者に対し、面接調査を行い、
色素沈着の程度・部位・形態などの確認を行い最終的な判断をしているのです。
例え、どんなに醜い醜状であっても眉毛・頭髪に隠れる部分は、計算対象から除外されます。
また、顎の下にできた醜状で、正面から確認できないものは、これも醜状痕としての
後遺障害対象から除外されています。
⑥上肢・下肢の醜状
上肢の露出面とは、上腕部、肩の付け根から指先、下肢の露出面は大腿、足の付け根から
足の背部までをいい、これらの部分に、手のひら大の醜状痕が残ったときは、上肢で14級3号、
下肢で14級4号が認定されます。
手のひらの3倍程度以上の瘢痕であれば、著しい醜状と判断され、12級相当が認定されています。
なお、手のひら大とは、指の部分を除いた面積で、被害者の手のひらの大きさで計測します。
上肢または下肢の露出面に複数の瘢痕や線状痕が存在するときは、それらの面積を合計して
評価することになっています。
長さではなく、面積の比較であることを理解してください。
⑦日常露出しない部位の醜状障害
日常露出しない部位とは、上のイラスト右側の塗りつぶした範囲の胸部・腹部・背部・臀部を
言います。
胸部+腹部、背部+臀部の合計面積の4分の1以上の範囲に瘢痕を残すものは14級が、
2分の1以上の範囲に瘢痕を残すものは12級相当が認定されます。
胸部+腹部、背部+臀部の合計面積の4分の1以上の範囲、または2分の1以上の範囲となると、
相当に大きなもので、女性であれば、水着姿になれない深刻なものです。
露出度は、年々高くなっており、最近の傾向として、運用上は、これ以下の面積であっても、
等級は認定されているようです。
他人をして醜いと思わせる程度、つまり、人目につく程度以上のもの?では、上記の認定基準で
諦めるのではなく、申請は行わなければなりません。
3)申請のタイミング
受傷から6カ月を経過した時点で症状固定、後遺障害等級を確定させます。
申請は創面癒着後6カ月とされていますから、縫合したときは、糸抜きをしてから
180日後となります。
180日を経過すれば、他に骨折などで治療中であっても、顔面の醜状痕だけは症状固定と
すべきの考えで、これまでから、そのような対応を続けてきています。
そして、創、切傷は、時間の経過とともに、僅かではありますが、収縮を続けていきます。
すべての傷病の症状固定を待っていれば、5.2cmが、4.7cmになり兼ねないのです。
5㎝以上あったものが、2㎝に、消えてなくなることはあり得ないのですが、大方は、
4.7㎝、4.5㎝で、見た目は前と変わらないのに、自賠責保険の評価は、1051万円、
もしくは616万円から224万円と下がり、2.9㎝に至っては、非該当で金銭的な評価は0円と
なります。
大半の被害者は、顔面の醜状を気にするあまり、美容形成で形成術を急ぐのですが、
治療効果と損得勘定で考えるのであれば、急ぐべきは、6カ月後の症状固定であり、
治療は後回しです。
医大系の形成外科における治療は、6~8カ月後、創や醜状の安定を待って、着手されています。
つまり、目立たなくする、ベストな治療は、そんなに急いで実施されるものではないのです。
顔面に5㎝以上の線状痕を残すと、等級は7級12号であり、自賠責保険からの振込額は1051万円、
線状痕で9級16号が認定されても、616万円です。
参考までに、肩関節の用廃では、8級6号で819万円、
1耳の聴力を喪失しても、9級9号で616万円、
男性で片側の睾丸を喪失した男性では、11級10号で331万円です。
4)後遺障害診断書、記載の要領
後遺障害診断書は、見開きのA3サイズですが、⑦醜状障害の記載欄は、右上の隅、
4.3×4.5mmと非常に小さく、記載を受けても、大変見にくいです。
そこで、後遺障害診断に際しては、
①まず、デジタルカメラで醜状の写真撮影を行います。
②町の写真屋さんに持ち込み、A4サイズのプリント画像に加工してもらいます。
③プリント画像に、透明フィルムを貼り付け、醜状の長さや面積を計測して書き込みます。
これを医師に見せて、間違いのないことを確認してもらい、後遺障害診断書に、
別紙参照の記載を受けるのです。
5)他の認定基準との比較
①顔面神経麻痺
顔面神経麻痺は、本来は、神経系統の機能の障害ですが、その結果として現れる口の歪みは、
外貌に醜状を残すものとして12級13号が認定されます。
まぶたの運動障害は、顔面や側頭部の強打で、視神経や外眼筋が損傷されたときに発症しています。
ⅰまぶたを閉じる=眼瞼閉鎖、
ⅱまぶたを開ける=眼瞼挙上、
ⅲ瞬き=瞬目運動
まぶたには、上記の3つの運動があり、まぶたに著しい運動障害を残すものとは、
瞼を閉じたときに、角膜を完全に覆えないもので、兎眼と呼ばれています。
同じく、まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもので、これは、眼瞼下垂と呼ばれています。
単眼で12級2号、両眼で11級2号が認定されています。
これらも、上記等級と、外貌の醜状障害による等級の内、いずれか上位の等級が選択されます。
顔面神経麻痺に伴い、口の歪みと眼瞼下垂を残したとき、醜状障害としてなん級になるのか?
口の歪みで12級13号、眼瞼下垂で12級2号、これらを併合し11級?
外貌に著しい醜状を残すものとして、7級12号?
外貌に相当程度の醜状を残すものとして、9級16号?
お顔を拝見しないことには、判断できません。
②耳介の欠損
耳介軟骨部の2分の1以上を欠損したときは、耳介の大部分の欠損としては、12級4号ですが、
醜状障害でとらえると、外貌に著しい醜状を残すものとして7級12号になります。
耳介の一部の欠損では、耳介の欠損としての等級はありませんが、それが、
外貌の醜状に該当すれば、12級13号が認定されています。
③鼻の欠損、斜鼻、鞍鼻
鼻軟骨部の全部、または大部分の欠損し、鼻呼吸困難、または嗅覚脱失を残したときは、
9級5号ですが、醜状障害ととらえたときは、7級12号が認定されます。
上記の等級は併合されることはなく、いずれか上位が選択されます。
鼻軟骨の一部、または鼻翼を欠損したときは、鼻の欠損としての等級認定はありませんが、
外貌醜状では、12級13号が認定されています。
鼻骨の側面を打撃したことで、鼻骨が横にずれた形となり、斜鼻を残したとき?
打撃が鼻骨の上からの打撃で、鼻骨が脱臼、陥没する鞍鼻を残したとき?
鼻の後遺障害として等級の定めはありませんが、いずれも醜状障害として申請することになります。
程度により、12級13号、9級16号、7級12号が認定されます。
イラスト右端のような鞍鼻であれば、7級12号となります。
耳介や鼻の欠損として後遺障害を申請するのか、それとも、醜状障害として申請するのか、
事前の検証が必要です。
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