脊髄不全損傷(せきずいふぜんそんしょう)=非骨傷性頚髄損傷(ひこっしょうせいけいずいそんしょう)

交通事故外傷で、XP、MRIの画像では、明確な骨折・脱臼所見がないのに、
脊髄損傷と思われる症状が現れるケースが頻繁に発生しています。

不全とは、国語辞典によると、「活動や機能が完全でないこと、不完全」 と解説されています。
脊髄不全損傷の不全とは、原因と損傷部位がハッキリしないことを意味しています。

画像所見は確認できないものの、腱反射の亢進、異常反射が出現しており、
著明な筋萎縮、上・下肢に麻痺が認められる被害者がおられます。

麻痺の発現には、脊柱管狭窄が素因となることが多く、頚椎に変性を有している
中高年齢の被害者に好発しています。

脊柱管狭窄の因子は、遺伝的な狭窄症のケース、骨棘形成、椎間板膨隆や
頚椎不安定性等の後天的な頚椎症性変化、後縦靭帯骨化症が考えられます。

多くは、先に説明した中心性頚髄損傷となり、上肢中心の症状となります。

 しかし、画像所見が得られなければ、自賠責調査事務所は非該当、14級9号、12級13号の選択で、
脊髄損傷としての認定はありません。
脊髄損傷の高位と程度を診断するには、MRI検査が有用です。

損傷部位は、C3/4が最も多く、急性期であれば、T2強調画像で高輝度が確認することができます。

慢性期では、T1強調画像でスポット状の低信号領域が出現し、その領域が広いほど
脊髄損傷の程度は大きいと説明されています。

              T1強調 軟化型      T2強調 高輝度

本来は、上記の説明の通りですが、固定術等が実施された被害者には、
アーチファクトでMRI所見がとれないケースがあることを知っておく必要があります。

自賠責調査事務所の認定要件は、MRIのT2強調画像で高輝度が認められることです。
この画像所見が確認できるのは、受傷後の急性期、受傷からほぼ2カ月に限定されます。

慢性期にはT1強調画像で軟化型損傷を発見する必要があります。

MRI画像の精度ですが、目安としてT=テスラ=解像度が表示されています。
1989年前後にMRIを導入した病院は、0.3~0.5Tですが、1998年以降は1.5Tが主力で、
現在では3Tも登場しています。数字が高いほど鮮明な画像が得られます。

被害者が治療先の機器の精度をチェックする、時代はそこまで進化しているのです。

しかし、(※)アーチファクトが発生していれば、MRIでの立証は絶望的です。

SSEP、MEP、サーモグラフィー、針筋電図検査の補助的診断で立証を行い、
自賠責調査事務所に過度な期待を抱くことなく、訴訟で決着をつけることになります。

※アーチファクト、artifact
人工の産物、本来は存在しないものを意味しています。

頚椎などの固定術では、ドリルを使用して骨切りを行うのですが、
微少なドリルの鉄粉が残り、この鉄粉がMRIの磁場に反応して画像がぼやけ、
ハッキリと写りません。
肺のCT検査では、どんなに上手に息を 止めても心臓は動いています。

それにより、心臓周辺の組織はぶれて写り、気管支や血管がぶれて腫瘍のように
見えることがあるのですが、そこに本当の腫瘍はありません。これを人工産物、
アーチファクトと呼んでいます。

SSEP、MEPの検査所見ですが、現状で、自賠責調査事務所は有意な所見とは考えていません。

あくまでも、補助的な立証とされ、中心的にはMRI画像一辺倒の判断となっています。

前方固定術や脊柱管拡大形成術が実施されたものは、脊柱に奇形・変形の範疇で捉えて、
11級7号が、軟部組織に器質的損傷が確認され、脊柱の可動域が2分の1以下に制限されたものは、
8級2号が認定されています。

固定術ではなく、保存療法にとどまるものは、14級9号、12級13号、稀に9級10号が
認定されるにとどまっています。

脊髄損傷では、神経系統の機能の異常に該当し、後遺障害等級は、1、2、3、5、7、9、12、14級の
8段階からの選択となります。

脊柱の奇形・変形では、日常生活で大きな支障が生じることは少なく、裁判では、
逸失利益の積算で、喪失率の減額や喪失年数の短縮化が目立ちます。

これらの手術で、脊髄に対する圧迫が排除され、症状が一気に改善している被害者は、
これでもやむを得ないと考えています。

圧迫を除去しても、脊髄に不可逆的な損傷を来している場合は、術後もスッキリとした
改善が得られず、治療の方法もありません。
このケースでは、神経系統の機能の異常を立証して、8段階の選択を求めることになります。

自賠書式には、脊髄判定用の用紙が用意されており、後遺障害診断書と一緒に主治医に示して
診断と作成をお願いしなければなりません。

 

脊髄不全損傷=非骨傷性頚髄損傷における後遺障害のポイント

MRI所見が得られているときは、立証に苦労はありません。
しかし、受傷から2、3年が経過し、MRIで有意な所見が得られていないときは、大変に苦労します。
針筋電図検査で、神経原性麻痺が確認できれば、画像と同レベルの他覚的所見となります。

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