低髄液圧症候群=脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)= CSFH
CSFH は、 Cerebro Spinal Fluid Hypovolemia の略語です。
CSFH の診断基準
日本神経外傷学会に参加する脳神経外科医が中心となって、
頭部外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準をまとめています。
1)診断基準のうち、前提となる基準は、
①起立性頭痛
国際頭痛分類の特発性低髄液性頭痛を手本として、起立性頭痛とは、頭部全体に及ぶ鈍い頭痛で、
坐位または立位をとると 15 分以内に増悪する頭痛と説明されています。
②体位による症状の変化
国際頭痛分類の頭痛以外の症状としては、項部硬直、耳鳴り、聴力の低下、光過敏、悪心、
これらの5つの症状です。
次に大基準として、
①MRIアンギオで、びまん性の硬膜肥厚が増強すること
この診断基準は、荏原病院放射線科の井田正博医師が、
「低髄液圧の MRI 診断の標準化小委員会」 ここで提示されている基準に従います。
②腰椎穿刺で低髄液圧が 60mmH2O 以下であることが証明されること
③髄液漏出を示す画像所見が得られていること
この画像所見とは、脊髄MRI、CT脊髄造影、RI脳槽造影のいずれかにより、
髄液漏出部位が特定されたものをいいます。
前提となる基準 1 項目+大基準 1 項目で、低髄液圧症候群= CSFH と診断されます。
CSFH は、大きなくしゃみや尻餅をついても発症すると言われており、これが外傷性であると
診断するための基準としては、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が
否定的とされています。
上記をまとめると、
①起立性頭痛または、体位によって症状の変化があり、
②MRIアンギオで、びまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O以下
であることもしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること。
③そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの。
上記の3条件を満たしたものに限り、外傷性CSFHと診断されることになりました。
裁判所の判決動向
横浜地裁H18-9-25~東京地裁H19-11-27、この間に 9 件の訴訟が提起されていますが、
いずれもCSFH は否定されています。
先の診断基準が公表されたのは、H19-2-20ですが、それ以降の4件は、
この診断基準をベースにして認定が退けられています。
特筆すべきは、RI 脳槽造影による漏出は、脊椎腔穿刺の際にできた針穴から
漏出している可能性が高いのか?もしくはRI 脳槽シンチの所見は個人差が大きく、
診断基準とするに批判的な見解が多いのか?
つまり、RI 脳槽造影に批判的な判決が目立っています。
私のこれまでの経験則でも、脳槽シンチ後に症状が悪化した被害者が30名以上おられます。
そして、100 例を超える経験則で、上記の診断基準を満たすものは、1例もありません。
脳脊髄液減少症=CSFH、東京高裁の判決
先に横浜地裁が、H20-1-10にCSFHを認める判決を下していますが、東京高裁H20-7-31の判決では
控訴棄却、1 審判決を支持しています。
H16-2-22、布団販売業の42 歳男子が乗用車を運転、交差点を直進中、
対向右折車の衝突を受けたもので、事故受傷から14カ月後にCSFHの確定診断がなされています。
①本件事故により、頭部挫傷の診断を受けていること、
②初診の治療先でも頭痛を訴え、カルテには、眼の奥が痛いとの記載があること、
③経過の治療先のカルテにも、右眼の裏が痛いとの記載があること、
④頭痛に程度の差は認められるが、右眼の奥ないし裏が痛むという点で一貫性を有している、
⑤頭痛についても、身体を横にして休んでいると和らぐというもので、起立性頭痛の症状と符合、
⑥何より、EBP(エビデンスに基づく実践(Evidence-based practice )の治療で完治していること、
上記の理由により、 CSFH が本件事故による衝撃ないし外傷に起因するものであると
推認することができると判断、本件事故との因果関係を認めました。
さて、この判決、CSFH と交通事故受傷の因果関係を認めた画期的なものなのか?
私は、保険屋さんの主張があまりに短絡で、結果として、転けたに過ぎないと評価しています。
頭部外傷に伴う CSFH の診断基準では、
①起立性頭痛または体位によって症状の変化があり、
②造影 MRI でびまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O 以下であること、
もしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、
③そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、
上記3つの条件を満たしたものに限り、外傷性CSFH と診断されており、本件も、
この 3 条件を満たしています。
本件は、当初、保険屋さん側から債務不存在確認請求訴訟が提起されています。
被害者側の反訴により、損害賠償反訴請求事件となったものです。
さらに、保険屋さんは、当初、CSFHと本件事故の因果関係を認めているのです。
後に、錯誤によるものとして撤回していますが、横浜地裁は、時機に遅れた主張で、
禁反言の原則からも許されないと、厳しく指摘しています。
ともあれ、CSFHは先の3つの診断基準を満たせば、事故との因果関係が認められる傾向です。
しかし、現実の相談では、3つの条件を満たすケースは、極めて少数例です。
むしろ、頚部交感神経の暴走による、バレ・リュー症候群の重症例が大半と思われるのです。
低髄液圧症候群=CSFHは、健保で治療が認められている傷病名です。
脳脊髄液減少症、CSFHにおける後遺障害のポイント
1)被害者からの電話やメール相談に対しては、3条件を満たしているかをチェックします。
満たしていると思われるときは、各地で実施している交通事故無料相談会で面談します。
診断書、診療報酬明細書などを検証し、3条件を満たしていることが確認できたときは、
後遺障害の立証についてサポートを開始します。
後遺障害診断書を回収、自賠責保険に対して被害者請求で申請します。
2)それでも、現時点では、厚生労働省が事故との因果関係を認めておらず、
調査事務所は、それを理由として非該当の結果を通知してくると予想しています。
非該当では、直ちに、自賠・共済紛争処理機構に対して紛争処理の申立を行います。
つまり、被害者請求の時点で、紛争処理の申立書の作成も完成させておくのです。
しかし、余程のことが起きない限り、非該当の結論は変わりません。
ここまでは、訴訟に至る儀式のようなものです。
3)この段階で、交通事故に長けた弁護士に委任、本件の損害賠償請求訴訟を立ち上げます。
3条件を満たしている被害者は、ご相談いただければと思います。
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