胸郭出口症候群 (きょうかくでぐちしょうこうぐん)
頚部捻挫では、頚部・肩~上肢・手指の重さ感、だるさ感、痺れが、代表的な神経症状です。
MRI撮影では、C5/6、6/7の左右いずれかの末梢神経=神経根が圧迫されている、
あるいは、通り道が狭められている画像所見が得られます。
これで、自覚症状がMRI画像で立証できたことになり、圧迫のレベルによって、
14級9号、12級13号の後遺障害等級が認定されているのです。
ところが、痺れの自覚症状があるのに、MRIを撮影しても画像所見が得られないことがあるのです。
胸郭とは12の胸椎、左右12対の肋骨、肋骨と前側で連結する胸骨によって形成されている
骨格の構造で、上肢の付け根から胸郭の最上の部分を胸郭の出口=胸郭上口と呼んでいます。
胸郭出口部は、上肢に流れる動静脈や上肢の運動や知覚を担当する腕神経叢の通り道となっており、 腕神経叢は、左右にそれぞれ5本ずつ走行しています。
胸郭出口部にはこれらの他に、骨では鎖骨、第一肋骨、筋肉では前・中・後斜角筋、
鎖骨下筋、小胸筋が存在しています。
これらの組織に起こった形態的異常により、血管や神経の通り道が狭くなり、
血管や神経が圧迫されたり、引っ張られたりすると、
上肢に冷感・疼痛の血流障害や、痺れ・知覚鈍麻・筋力低下の神経障害を発症することになります。
①前斜角筋や中斜角筋、頚部の筋肉の間で圧迫されると斜角筋症候群、
②鎖骨と第1肋骨の間で圧迫されると肋鎖症候群、
③小胸筋部で圧迫を受けると小胸筋症候群、
④先天性の奇形ですが、頚椎にある余分な肋骨で圧迫されると頚肋症候群、
これらを一まとめにして、胸郭出口症候群と呼んでいるのです。
人類は、元々は四足歩行でしたが、いつの日か、二足歩行に進化を遂げました。
その途端、腕は首からぶら下がる状態となったのです。
症状としては、頭痛、肩凝りに加えて、上肢の痛み、痺れ、倦怠感、
血行障害として皮膚蒼白、冷感、浮腫、自律神経症状として顔面の発汗異常、
嘔気等とさまざまですが、代表的には、上肢の痺れ感であり、
これは、神経根症と一致しているのです。
これらの症状が、上肢の挙上運動や持続的な運動で増強してくるのが本症例の特徴です。
強い動脈の圧迫により、疾患のあるほうの上肢が冷たくなる、脈が弱くなる、痛みが生じます。
静脈の圧迫が強ければ、上肢にチアノーゼなどを呈します。
診断は、MRI、血流の状態を判定するドップラー検査、体表の温度を測定し、
温度差を判定するサーモグラフィー検査、筋電図に加え、
下記に示す検査を総合的に行い、似たような症状を呈する他の疾患=頚椎神経根症を除外、
鑑別して確定されています。
①Morleyテスト
鎖骨上窩を圧迫すると、上肢が痛みます。
②Wrightテスト
肘のレベルまで両手を上げた状態で、橈骨動脈が触れなくなり、胸骨出口部が痛くなります。
③Roosテスト
Wrightテストの状態で、手・指の屈伸を3分間行います。
腕神経叢に圧迫があるときは、腕がだるくなり、指が痺れてきます。
静脈に圧迫がある場合は、上肢が青白くなり、チアノーゼが生じます。
④Edenテスト
両肩を後ろ下方に引っ張り、胸を張ってもらうと脈が触れなくなります。
いずれも、故意に胸郭出口を狭くさせることにより、症状の再現を調べる検査です。
胸郭出口部に存在する斜角筋・鎖骨下筋・小胸筋が、事故受傷により断裂損傷を受ければ、
血腫や瘢痕が形成され、結果として血管神経を圧迫することは容易に考えられます。
筋断裂は、断裂局所の疼痛、腫脹、皮下出血、圧痛を示しますので比較的容易に
その判断ができます。しかしこれらの筋肉が断裂を起こすのは、相当大きな衝撃が
頚部に加えられたときに限ってと考えるべきで、通常の追突事故では、まず考えられません。
治療は保存的療法が中心ですが、本症例に特徴的な上肢の症状を緩和する目的で
体格・体質改善が指導されます。長時間のうつむき姿勢での仕事や、
重い物の持ち運び等は禁止され、筋力の柔軟性、増強を目的とした運動療法、
ウエイト・トレーニングや水泳などが推奨されます。
薬物療法としては筋弛緩剤、循環改善剤、神経機能改善剤、消炎鎮痛剤、
精神安定剤の投与が行われます。本症例で手術に発展することはまずありませんが、
治療期間が長期化する特徴があります。
保存療法が優先されますが、我慢できない痛みに対しては、手術療法が検討されます。
胸郭出口を構成している斜角筋切離術や第1肋骨の切除等で、狭窄の軽減をはかりますが、
術後の回復は、必ずしも目覚ましいものではありません。
胸郭出口症候群における後遺障害のポイント
1)胸郭出口症候群の診断基準は、以下の4点です。
①頚部、肩、腕に神経や血管の圧迫症状があり、愁訴が比較的長期間持続・反復すること、
②アドソン・ライト・エデンの各テストのいずれかが陽性で、テスト時に愁訴の
再現・増悪があること、
③頚椎疾患、抹消神経疾患を除外できること、
④MRアンギオ検査で圧迫や狭窄所見が認められること。
圧迫の器質的所見は、鎖骨下動脈の血管造影検査で立証します。
2)どんな交通事故で、胸郭出口症候群を発症するのか?
受傷機転をハッキリと証明できないところが、胸郭出口症候群です。
自賠責調査事務所は、「交通事故で胸郭出口症候群を発症することの証明がなされていない。」
として、後遺障害等級を認定していません。
ほとんどが、頚椎捻挫として14級9号の認定でごまかしています。
第1肋骨の切除術を受けた後も、肩関節の可動域に2分の1以上の制限を残している
被害者に対して、12級13号が認定されたケースがありました。
肩関節に器質的損傷を認めないが、10級10号を否定した理由となっています。
なんとしてでも、胸郭出口症候群としては、後遺障害を認めないといった様子です。
ところが、裁判では、胸郭出口症候群を12級13号と認定しています。
2005年8月30日、名古屋地裁は圧迫型のTOSを12級13号と認定、
平成2006年5月17日、名古屋高裁もこれを追認しています。
2007年12月18日、東京地裁は、ライトテストのみで立証された胸郭出口症候群に対して
12級13号を認定しているのです。
現状では、調査事務所は認定しないが、裁判では、複数が認められている状況のようです。
3)圧迫型と牽引型の2種類?
胸郭出口症候群には、鎖骨下動脈部で上腕神経叢を圧迫している圧迫型と、
受傷時に上腕神経叢が引っ張られる牽引型の2種類が存在しています。
牽引型は、先に上腕神経叢麻痺で学習した軸索損傷もしくは神経虚脱であり、
受傷から3カ月を経過すれば、改善が得られるものと思われます。
後遺障害として問題となるのは、圧迫型となります。
圧迫型は、器質的損傷を血管造影撮影で立証しています。
ところが、血管造影撮影は、やや危険を伴うものでもあり、
治療が目的ではない立証だけでは、治療先の腰が引けてしまう状況で、
この検査が中々受けられない問題点があります。
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