右肘内側々副靱帯損傷

右肘内側々副靱帯損傷

 肘関節は上腕と前腕を連結しており,上腕骨(じょうわんこつ),橈骨(とうこつ),尺骨(しゃっこつ)の3本の骨で構成されています。
前腕部の内側,小指側に尺骨,外側,親指側に位置するのが橈骨です。

 肘関節の両側には,肘関節が横方向に曲がらないように制御している側副靭帯があります。
内側々副靱帯は,上腕骨と前腕の内側にある尺骨を,外側々副靱帯は,上腕骨と前腕の外側にある橈骨を連結しています。

 交通事故では自転車,バイクからの転落で手をついたときの衝撃力が肘に作用して,内側々副靱帯を損傷しており,肘関節脱臼に伴うものと単独損傷の2種類があります。

 内側側副靭帯損傷の症状ですが,受傷直後から肘の激痛と腫れが出現,激痛のため,肘関節を動かすことができなくなります。
内側側副靭帯損傷では,上腕骨内側上顆の下端に圧痛が認められ,外反位で疼痛が増強し,不安定性が認められます。
レントゲンでは判別が難しく,MRI・エコー検査で確定診断がなされています。
治療は2~3週間のギプス固定が行われ,その後は,ギプスをカット,リハビリ運動が始まります。

 外側々副靭帯損傷は,肘関節の脱臼に伴うものがほとんどですが,受傷後,時間が経過してから,肘の引っかかり感,外れそうになる感覚等が問題となります。
後外側回旋不安定テストを行い,肘が外れそうな感覚=クリック音を調べます。

 小児の上腕骨外側上顆剥離骨折を伴う外側々副靭帯損傷では,骨片の整復固定術が必要です。
陳旧性の外側々副靭帯損傷に対しては,靭帯再建術が実施されています。

 ここからは,野球の話です。

 ボールを投げるとき,特に加速をつけるときは,肘の内側を伸ばす不自然な動作を行います。
それに伴って,内側々副靱帯は引き伸ばされることになります。
投球動作の反復により,内側々副靱帯は引き伸ばされ続け,肘に対する負担が大きくなり,行き着くところ,側副靱帯が部分断裂するのです。ピッチャーにとっての職業病と言えます。

 メジャーリーガーのダルビッシュ投手が,2015年に右肘内側側副靱帯の一部断裂で,トミー・ジョン手術を受けました。
古くは,村田兆治投手,桑田真澄投手が,この手術を受けています。
最近では,松坂・和田・田沢・藤川投手も,この手術を受けて復活しています。

トミー・ジョン手術について
1974年,フランク ジョーブ博士が,ドジャースのピッチャー,トミー・ジョン選手の内側側副靱帯の断裂に対して行った手術で有名となりました。
この手術後,トミー・ジョン選手は,170勝し,年間20勝以上を2回果たしました。
現在,この手術は,アメリカスポーツ医学研究所のジェームズ・アンドリュース医師が第一人者です。
トミー・ジョン術とは,部分断裂した内側側副靱帯を摘出し,長掌筋(ちょうしょうきん)腱を移植する術式です。

 長掌筋は,手首を曲げる役目を果たしていますが,同じ働きを持つ筋肉は他にもあり,長掌筋を外しても,問題を残しません。握り拳では,手首に腱がむき出しとなるのですが,この腱が長掌筋の腱です。

 再建した靱帯の定着に時間がかかり,術後は長期のリハビリが必要となり,復帰には1年以上を要しますが,すでに800人以上の大リーガーがこの手術を受けており,リハビリの技術が向上したところから,成功率も90%を超えています。

肘内側々副靱帯損傷における後遺障害

 交通事故外傷の内側々副靱帯損傷は軽度から中等度であれば,テーピングや短期間のギプス固定を行えば,リハビリ期間も含めて3ヶ月もあれば,後遺障害を残すことなく治癒しています。
強烈な打撲で,靱帯が引きちぎられたときでも,靱帯縫合,ギプス包帯,その後のリハビリで改善が得られ,後遺障害を残すことはありません。

 後遺障害の対象は,肘内側部の痛み,動揺性,機能障害です。
内側々副靱帯損傷が確定診断され,ギプス固定がなされたときでも,その後のリハビリに無関心で放置されたときは,肘関節の拘縮で機能障害を残すことがあります。

事例紹介

(1)肘関節の拘縮で10級10号を獲得した例
このケースは,意図的にリハビリを怠ったのではないかという疑惑から,12級13号の認定でした。
この被害者の方は,1ヶ月平均で16回のリハビリ治療を継続しており,治療内容が温熱療法だけに終始したことは問題であったものの,このことは被害者の責任に帰するものではないとして異議を申し立て,10級10号を獲得しています。

(2)肘関節打撲と診断し,内側側副靱帯損傷を見落とした例
側副靱帯は緩んだままで,不安定性を残して症状固定としました。
側副靱帯の損傷はMRIで,不安定性はストレスXP撮影で立証し,12級6号を獲得しています。

(3)左内側々副靱帯損傷を見落とした例
無料相談会に参加されたときは,受傷から2年が経過していました。さらに,受傷後のMRIの撮影すら実施しておりませんでした。
受傷直後のレントゲンでは,尺骨はやや亜脱臼気味に写っています。
MRIで陳旧性の内側々副靱帯は,ほとんど断裂に近い損傷所見でした。
左肘は変形性肘関節症となっており,肘の可動域が低下,遅発性尺骨神経麻痺で,薬指の外側と小指のしびれ,握力の低下の訴えがあり,左手には軽度ですが,骨間筋萎縮が認められました。

 側副靱帯損傷はMRI,尺骨亜脱臼は3DCT,遅発性尺骨神経麻痺は神経伝達速度検査で立証した結果,変形性肘関節症を原因とする肘の機能障害で12級6号,遅発性尺骨神経麻痺で10級10号,併合9級が認定されました。

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