PCL後十字靱帯損傷
PCL後十字靱帯損傷
ACL前十字靱帯とPCL後十字靱帯は,ともに膝関節の中にある靭帯で,大腿骨と脛骨をつなぎ,膝関節における前後の動揺性を防止している重要な靱帯です。
交通事故では膝をダッシュボードで打ちつけて発症することが多く,dashboard injuryと呼んでいますが,PCLだけの単独損傷はほとんどありません。
多くは膝蓋骨骨折,脛骨顆部骨折,MCL損傷を伴いますので実に厄介な外傷となるのです。
運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま,ダッシュボードに外力・衝撃などによって膝を打ちつけ,脛骨が90°曲がったまま後方に押しやられ,PCL後十字靱帯損傷となるのです。
同時に,膝蓋骨骨折・脛骨顆部骨折などに合併して生じることが多いです。
後十字靭帯損傷は前十字靭帯損傷と比べ,機能障害の自覚や痛みが少ないのが特徴です。
前十字靭帯損傷に比して,痛みや機能障害の自覚が小さいものの,痛みと腫れは出現します。
膝蓋骨骨折等の痛みが中心となります。
ACL損傷に同じく,PCL損傷も診断をおこないます。
靭帯が切断されているときは当然ながら,膝がぐらつくので,そのぐらつきの有無や特性により診断が行われています。
①posterior sagテスト
膝を90°屈曲すると,下腿の重みで脛骨が後方に落ち込みます。
仰向けで股関節を45°と膝を90°曲げます。
後十字靭帯断裂では,脛骨上端を後方に押すとぐらつきます。
上記のテストで大まかな診断が可能ですが,損傷の程度を知るためには,単純X線写真,CTスキャン,関節造影,MRI等の検査を行います。
MRIがとても有効です。
②ストレスXP(レントゲン)撮影
脛骨を後方に押し出し,ストレスをかけた状態でXP(レントゲン)撮影を行います。
断裂がある場合,脛骨が後方に押し出されて写ります。
後十字靭帯損傷とは,靭帯が部分断裂したレベルであり,単独損傷では,大腿四頭筋訓練を中心とした保存療法の適用です。
膝を90°屈曲すると,下腿の重みで脛骨が後方に落ち込むのですが,これが10mm以上となると,後十字靱帯は断裂しており,再建術の適用となります。
自家組織のハムストリング腱,膝蓋腱などを編み込んで,アンカーボルトで留めるという高度な技術の必要な再建術が行われています。
手術となれば,膝の専門医がいる医大系の総合病院を選択しなければなりません。
PCL後十字靱帯損傷における後遺障害
現在も医学界では,PCL後十字靱帯損傷の治療は保存療法が中心です。
部分断裂であれば硬性装具とハムストリングの強化で,一定の改善が得られ,ドンジョイの装具で自転車を漕ぐリハビリが効果的とされています。
完全断裂であっても上記の保存的療法が推奨されているのですが,一生涯脚が細くならないように,筋トレや太ももの強化リハビリを継続しなければならず,現実的な選択肢ではありません。
やはり,完全断裂の根治は,再建術に頼ることになります。
後十字靱帯の手術は非常に難しく,感染症で人工関節の危険も予想されるところから,日本では再建術の実施はほとんどされないと言われています。
手術ができる医師も極めて少なく,深部感染では,人工関節置換術の可能性も0ではありません。
4か月以上を経過していれば,6か月を待って症状固定としています。
「先に症状固定とし,等級を確定させてから手術しても良いのか?」
この説明には,やや不正な響きが感じられるのですが,絶対に不正ではありません。
なぜならPCL後十字靱帯断裂も,4か月を経過すると陳旧性となっています。
※陳旧性とは,新鮮さを失った古傷のことです。
陳旧性であれば専門医による再建手術でも,元通りになる保証はありません。
4~6か月が経過した段階で保険会社に再建術を申し入れても,治療費が負担されることはなかなかありません。
さらに再建術では,3~4か月の入院と3か月以上のリハビリ通院が必要となります。
ここから4~5か月も休業すれば,勤務先では解雇か,忘れ去られてしまいます。サラリーマンであれば,その後の会社人生を失ってしまうのです。
そしてこのことは,本件の損害賠償の対象にはならないのです。
よってほぼ全ての被害者がやむを得ず症状固定を選択しているのです。
膝に動揺性が認められるときは,膝を4点で固定するドンジョイを選択してください。
後十字靱帯の損傷,断裂は,MRIで立証します。
動揺性はストレスXP撮影で,健側に比して○mmの動揺性が認められると,明確な記載を受けます。
下肢の動揺関節による後遺障害等級 | |
8級7号 | 労働に支障があり,常時固定装具の装着を絶対に必要とする程度のものは,1関節の用を廃したものとして8級7号が認定 |
10級11号 | 動揺関節で労働に支障があるが,固定装具の装着を常時必要としない程度のもの |
12級7号 | 動揺関節で通常の労働には固定装具の装着の必要がなく,重激な労働等に際してのみ必要のある程度のもの,習慣性脱臼および弾発膝を残すもの |
後遺障害の立証には必ずストレスXP撮影が必要となります。
ストレス撮影で動揺が立証されない限り,12級以上の認定はされません。
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