動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)
動眼神経麻痺は、眼そのものの外傷ではなく、頭部外傷、脳幹部の損傷や脳圧の亢進により、
第3脳神経が圧迫を受け、これが引き伸ばされたときに発症するものです。
動眼神経が麻痺すると、真っ直ぐ正面を見ているときでも、
麻痺が生じた眼は外側を向いており、モノが二重に重なって見える=複視を発症します。
麻痺側の眼は、内側を見ようとしても、眼球が中央までしか動かず、上下方向には全く動きません。
さらに、まぶたが下垂し、自力で持ち上げることができません。
動眼神経は、瞳孔のコントロールもしているのですが、麻痺により瞳孔は散大し、
光に対する反応で収縮しなくなります。
目を動かす神経は、滑車、外転、動眼神経の3つで、滑車神経と外転神経は、
単に、眼球を動かすだけの運動神経ですが、動眼神経は、眼球を動かす運動神経であって、
自律神経を構成する副交感神経という側面をもっています。
①眼球運動障害
眼球を動かす筋肉、外眼筋は、合計6種類があるのですが、それらの6種類の筋肉は、
滑車、外転、動眼の3つの神経に支配されています。
動眼神経は、内直筋、上直筋、下直筋、下斜筋、4つの外眼筋を支配、滑車神経は上斜筋、
外転神経は外直筋、1つの外眼筋を支配しているのです。
これらの神経に異常や麻痺があれば、支配筋肉を動かすことができなくなります。
動眼神経麻痺では、障害された眼は、正中視で外側=耳側に偏位します。
また、動眼神経は、外眼筋の支配以外に、眼瞼、まぶたを挙上するための上眼瞼挙筋を
支配しており、動眼神経が障害されると眼瞼下垂が生じます。
②自律神経の障害
すでに説明した通り、動眼神経には自律神経としての働きもあり、その作用は縮瞳作用になります。
したがって、動眼神経が障害されると瞳孔が散大します。
動眼神経障害では、障害のある眼球が、正中視で外側に偏位し、眼瞼下垂、
瞳孔散大が出現するのです。
動眼神経麻痺における後遺障害のポイント
1)眼球の運動障害では、
運動障害に関すること | |
11級1号 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの、
眼球の著しい運動障害とは、ヘスコオルジメーターで眼球の注視野の広さが2分の1以下となったものを説明しています。 |
12級1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの、 |
眼球の運動は上下、内外、上下斜めの3対の外眼筋の一定の緊張で維持されています。
外眼筋の一部が麻痺すると、緊張状態が壊れ、反対の方向に偏位することになります。
後遺障害では、視野計を使用し、注視野を測定します。
ゴールドマン視野計
注視野とは、頭部を固定した状態で、眼球の運動のみで見える範囲のことですが、
単眼視では各方向50°両眼視では45°となります。
注視野の広さが2分の1以下に制限されていれば、著しい運動障害として、単眼で12級1号が、
両眼で11級1号が認定されています。
単眼視注視野範囲
上50 | 上外50 | 外50 | 外下50 | 下50 | 下内50 | 内50 | 内上50 | 計400 | |
右眼 | |||||||||
左眼 |
両眼視注視野範囲
上45 | 上外45 | 外45 | 外下45 | 下45 | 下内45 | 内45 | 内上45 | 計360 | |
右眼 | |||||||||
左眼 |
眼球運動障害として後遺障害等級に該当しないものであっても、複視が認められるときは、
その程度に応じて等級が認定されています。
複視に関すること | |
10級2号 | 正面視で複視の症状を残すもの、 |
13級2号 | 正面視以外で複視の症状を残すもの、 |
複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。
検査には、ヘスコオルジメーターを使用し、複像表のパターンで判断します。
ヘスコオルジメーター
正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、
日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号が認定されています。
左右上下の複視は、正面視の複視ほどの大きな支障はないものの、軽度の頭痛や眼精疲労は
認められます。このときは、13級2号の認定がなされます。
2)まぶたの運動障害
まぶたの運動障害は、顔面や側頭部の強打で、視神経や外眼筋が損傷されたときに発症します。
ホルネル症候群、動眼神経麻痺、眼瞼外傷、外転神経麻痺が代表的な傷病名です。
まぶたには、以下の3つの運動があります。
①まぶたを閉じる=眼瞼閉鎖
②まぶたを開ける=眼瞼挙上
③またたき=瞬目運動
後遺障害の、まぶたに著しい運動障害を残すものとは、まぶたを閉じたときに、
角膜を完全に覆えないもので、兎眼、まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもので、
これは、眼瞼下垂と呼ばれています。
いずれも、単眼で12級2号、両眼で11級2号が認定されています。
実務上は、顔面の醜状障害として上位等級の9級16号を目指すことが大半です。
3)瞳孔に関すること
瞳孔は通常は光に反応して収縮します。
自律神経が支配していますが、目に入る光量が低下すると最大6㎜の大きさに散大します。
猫の眼はこの機能を分かりやすく説明してくれます。
外傷によって瞳孔が開いたままとなり、光に対する反応が消失、または減弱したものを
外傷性散瞳と呼んでおり、これらは、眼科医のハロゲン・ペンライトによる対光反射検査で
立証します。
瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に支障を来すものは、
単眼で12級相当、両眼で11級相当が認定されます。
瞳孔の対光反射は認められるが不十分であり、羞名を訴え労働に支障を来すものは、
単眼で14級相当、両眼で12級相当が認定されます。
関連記事はこちら
- ホルネル症候群
- 上顎骨骨折(じょうがくこつこっせつ)
- 下顎骨骨折(かがくこつこっせつ)
- 側頭骨骨折(そくとうこつこっせつ)
- 前房出血(ぜんぼうしゅっけつ)
- 口の構造と仕組み
- 味覚障害
- 嗅覚の脱失
- 嚥下障害(えんげしょうがい)
- 外傷性散瞳(がいしょうせいさんどう)
- 外傷性白内障(がいしょうせいはくないしょう)
- 外傷性眼瞼下垂(がいしょうせいがんけんかすい)
- 外傷性網膜剥離(がいしょうせいもうまくはくり)
- 外傷性虹彩炎(がいしょうせいこうさいえん)
- 外傷性黄斑円孔(がいしょうせいおうはんえんこう)
- 外傷性鼓膜穿孔(こまくせんこう)
- 外転神経麻痺(がいてんしんけいまひ)
- 水晶体亜脱臼(すいしょうたいあだっきゅう)
- 水晶体脱臼、無水晶体眼(むすいしょうたいがん)
- 涙小管断裂(るいしょうかんだんれつ)
- 滑車神経麻痺(かっしゃしんけいまひ)
- 球結膜下出血
- 眼の仕組みと後遺障害について
- 眼底出血 網膜出血・脈絡膜出血
- 眼球破裂(がんきゅうはれつ)
- 眼瞼=まぶたの外傷
- 眼窩底破裂骨折(がんかていはれつこっせつ)
- 眼窩底骨折(がんかていこっせつ)
- 硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)
- 続発性緑内障(ぞくはつせいりょくないしょう)
- 網膜振盪症(もうまくしんとうしょう)
- 耳の構造
- 耳垂裂(じすいれつ)
- 耳鳴り
- 虹彩離断(こうさいりだん)
- 視神経管骨折(ししんけいかんこっせつ)
- 角膜上皮剥離(かくまくじょうひはくり)
- 角膜穿孔外傷(かくまくせんこうがいしょう)
- 言語の機能障害 反回神経麻痺(はんかいしんけいまひ)
- 醜状(しゅうじょう)障害
- 音響性外傷(おんきょうせいがいしょう)
- 頬骨々折(きょうこつこっせつ)頬骨体部骨折(きょうこつたいぶこっせつ)
- 頬骨弓骨折(きょうこつきゅうこっせつ)
- 頭蓋底骨折(ずがいていこっせつ)
- 騒音性難聴(そうおんせいなんちょう)
- 鼻の構造、仕組み
- 鼻の欠損
- 鼻篩骨骨折(びしこつこっせつ)
- 鼻軟骨損傷(びなんこつそんしょう)
- 鼻骨々折(びこつこっせつ)
交通事故・無料相談 弁護士法人前島綜合法律事務所
【受付時間】 10:00-20:00