尿管外傷(にょうかんがいしょう)
体に対する直接的な衝撃、つまり交通事故で尿管に外傷が起こることは、ほとんどありません。
稀に、胴体が後ろ向きに反りかえるような鈍い衝撃を受けると、
尿管上部が腎臓から千切れてしまうことがあると報告されていますが、
これまでに、そのような症例を経験したことはありません。
労災保険の後遺障害認定基準でも、尿管損傷は取り上げられていません。
ただ、あり得ることではあります。
尿管は可動性に富んだ組織であり、外傷性、非開放性の尿管断裂は稀ですが、
外傷性尿管断裂は腎孟尿管移行部に発生することが多く、この原因として、
腎孟尿管移行部は腸腰筋と腹膜とに比較的固定されており、腎が上方に偏位するとき
尿管の弾性の限界を容易に超えやすいこと、第12肋骨と腰椎横突起で圧迫されやすいことが
報告されています。
症状は、腹部や脇腹の痛みを訴えですが、尿の持続的な漏出による感染では、発熱を伴います。
また、血尿が見られることもあります。
尿管から尿が流出すると、腹膜内では腹膜炎、後腹膜では、尿貯留腫を起こします。
皮膚の開放創に向かえば尿管皮膚瘻、女性では、尿管膣瘻を形成することもあります。
エコー、静脈性腎孟造影、逆行性腎孟造影、経皮的腎孟造影検査を行うことにより、
尿管損傷の診断、損傷の程度の把握は比較的容易ですが、症例数が少なく、
発見が遅れることが多いのです。
オペ中に、誤って尿管を引っかける医原性の尿管外傷は、ほとんどが軽度なもので、
少量の尿が漏れ出しますが、損傷部は自然に修復されます。
もちろん、感染防止の必要から、抗生物質が投与されます。
感染症では、尿管狭窄を引き起こすことが多く、必ず、抗生物質の予防的投与が行われています。
外傷性の尿管の断裂では、尿は後腹膜腔に漏れ出ることになり、著しい尿漏れでは、
急性腹症、感染症を合併し、放置すると死に至るので、
柔軟な管=尿管ステントを留置する治療、脇腹を小さく切開し、
そこからステントを腎臓に通す経皮的腎瘻造設術が選択されています。
この処置で、2~6週間ほど、尿路を変更し、その間に尿管を回復させます。
尿管の完全断裂では、オペによる尿管の再吻合が行われ、後腹膜腔には、ドレインを留置されます。
※瘻孔、ろうこう
瘻孔とは、管腔臓器の壁に、その内容物が本来の行き場ではないところに漏れ出てしまう、本来つながっていないところに通じてしまう孔、異常な通路ができた状態のことを言います。
単に塞ぐだけでは、孔が閉じることはなく、化膿を治療し、この通路を切り取り、
閉鎖するオペを瘻孔形成術と呼びます。
例えば 肛門近くに 直腸の内容が肛門を通らずに出るような孔が開くと、
痔瘻、胃に孔を開けて体外と胃の内腔が直接つながるような管を留置することを胃瘻と呼びます。
尿管外傷における後遺障害のポイント
1)軽度な尿管外傷で、保存的に治癒したもの、ステント管の留置や経皮的腎瘻造設術で
治癒したものでは、後遺障害を残しません。
2)尿管上部が引き千切られたものであっても、吻合術やバイパス吻合術が成功し、
尿管狭窄を残さないときは、後遺障害を残しません。
3)しかし、外傷性の尿管断裂の発見が遅れ、著しい尿漏れで腹膜炎や急性腹症を合併、
漏れ出た尿が膿腫となったときは、腎摘出術が選択されます。
このときは、
①一側の腎臓を失い、腎機能が高度低下していると認められるものは7級5号が認定されます。
腎機能が高度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が31~50 ml/分であるものを言います。
高度低下は、腎機能の低下が明らかであって、濾過機能の低下により、易疲労性、
ホルモンの産生機能の低下により貧血を起こし、動悸、息切れを生じるような状態です。
②一側の腎臓を失い、腎機能が中等度低下していると認められるものは9級11号が認定されます。
腎機能が中等度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が51~70 ml/分であるものを言います。
中等度は、高度に至らないまでも同様の症状が生じる状態です。
また、健常者と腎機能低下の者(血清クレアチニン1.5~2.4mg/dl)を比較すると、
前者に比べ後者は運動耐容能が有意に低く、嫌気性代謝閾値が約4.3METsという報告が
なされています。
この知見を踏まえると、おおむね高度低下では、やや早く歩くことは構わないが、
早足散歩などは回避すべきと考えられています。
③一側の腎臓を失い、腎機能が軽度低下していると認められるものは11級10号が認定されます。
腎機能が軽度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が71~90 ml/分であるものを言います。
軽度低下は、腎機能の予備能力が低下している状態であり、基本的には無症状ですが、
過激な運動は避けるべき状態です、
④一側の腎臓を失ったものは13級11号が認定されます。
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