腎挫傷、腎裂傷、腎破裂、腎茎断裂
交通事故における腎臓損傷は、弊所では取り扱いはありませんが,
それなりの件数が発生しているようです。
バイクの事故で、身体を壁、電柱、立木などに強く打ちつけることで、
腎臓が破裂することもあります。
自動車VS自動車の事故では、シートベルトによる損傷も発生しています。
腎外傷では、あざができる軽度な挫傷から、尿や血液が周辺組織に漏出する裂傷や破裂、
腎動脈が切断される腎茎損傷まで、大雑把には1下の4つがあります。
① ② ③ ④
①挫傷、打撲、被膜下血腫 ②裂傷、亀裂 ③断裂傷、破裂 ④腎茎損傷、
腎外傷では、上腹部、肋骨と股関節の間=脇腹の痛み、脇腹のあざ、血尿、
シートベルトによる腎臓付近のあざ、肋骨下部の骨折による痛みなどの症状を訴えます。
ほとんどの腎外傷で血尿がみられます。
重度の腎外傷で、大量出血があるときは、急激な低血圧によるショック状態に陥ります。
エコー検査、造影CT検査が確定診断に有効です。
腎挫傷、腎裂傷でも軽度なものは、エコー、CTで血腫の大きさを監視しつつ、
増大傾向がなければ、安静下に、水分摂取量をコントロールし、
止血薬と抗生物質の投与による保存療法が続けられます。
腎破裂や腎茎部損傷の重度な外傷では、開腹による腎縫合術、腎部分摘出術、
腎摘出術が選択されています。
※腎外傷の分類
腎外傷は、DIP=点滴静脈性腎盂造影の所見より、造影剤の排泄が良好で、
腎杯、腎孟の全貌が描出されるものは、腎挫傷と診断されています。
造影剤の排泄が良好で、腎孟の全貌は描出されているが、腎杯の一部が欠損しているものは、
軽度の腎破裂、造影剤の排泄が障害され、数個の腎杯欠損があり、しかも腎杯も充分に
描出されていないものを中等度の腎破裂、造影剤の排泄がかなり障害され、
僅かに数個の腎杯が描出されるのみで、腎孟の形態が不明なものは、高度の腎破裂、
これらの3つを腎破裂と分類、造影剤の排泄がほとんど認められないものは、血管造影所見、
および手術所見で、腎断裂、または腎茎部損傷に分類されています。覚えることではありません。
腎機能が低下すると、吐気、嘔吐、不眠、頭痛、浮腫、易疲労性などを生じます。
腎機能が低下するにつれ、その症状は増悪し、仕事には大きな支障をもたらすことになります。
腎機能のレベル | 糸球体濾過値=GFR |
正常 | 91ml/分以上 |
軽度低下 | 71~90ml/分 |
中程度低下 | 51~70 ml/分 |
高度低下 | 31~50 ml/分 |
腎不全 | 11~30 ml/分 |
尿毒症 | 10 ml/分以下 |
※糸球体濾過値=GFR (しきゅうたいろかち)
腎臓の能力、どれだけの老廃物をこしとって尿へ排泄することができるのか?
つまり、腎臓の能力は、GFR値で判断されています。
この値が低いほど、腎臓の働きが悪いということになります。
糸球体濾過値=GFRが30ml/分以下では、透析の準備が必要な状態であり、
腎機能の1つであるホルモンの産生機能の低下による種々の症状を発症するので治療の継続が
不可欠となります。
なお、糸球体濾過値=GFRが30ml/分を超えていても、ホルモンの産生機能の低下による
高血圧が生じることがあります。
さらに、腎機能の著しい低下により、尿毒症を発症したときは、昏迷、昏睡などの無力症、
精神障害、高度の循環障害等が生じ、仕事をすることが、全くできなくなります。
腎外傷における後遺障害のポイント
1)一側の腎臓を失ったもの
①一側の腎臓を失い、腎機能が高度低下していると認められるものは7級5号が認定されます。
腎機能が高度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が31~50 ml/分であるものを言います。
高度低下は、腎機能の低下が明らかであって、濾過機能の低下により、易疲労性、
ホルモンの産生機能の低下により貧血を起こし、動悸、息切れを生じるような状態です。
②一側の腎臓を失い、腎機能が中等度低下していると認められるものは9級11号が認定されます。
腎機能が中等度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が51~70 ml/分であるものを言います。
中等度は、高度に至らないまでも同様の症状が生じる状態です。
また、健常人と腎機能低下の者(血清クレアチニン1.5~2.4mg/dl)を比較すると、
前者に比べ後者は運動耐容能が有意に低く、嫌気性代謝閾値が約4.3METsという報告がなされています。
この知見を踏まえると、おおむね高度低下では、やや早く歩くことは構わないが、
早足散歩などは回避すべきと考えられています。
③一側の腎臓を失い、腎機能が軽度低下していると認められるものは11級10号が認定されます。
腎機能が軽度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が71~90 ml/分であるものを言います。
軽度低下は、腎機能の予備能力が低下している状態であり、基本的には無症状ですが、
過激な運動は避けるべき状態です、
④一側の腎臓を失ったものは13級11号が認定されます。
GFRの値 | 31~50ml/分 | 51~70ml/分 | 71~90ml/分 | 91ml/分 |
腎臓を亡失 | 7級 | 9級 | 11級 | 13級 |
腎臓を失っていない | 9級 | 11級 | 13級 | – |
腎臓の障害は、腎臓の亡失と腎臓を失っていないものに分類、糸球体濾過値で
後遺障害等級を認定することになりました。 以前は腎機能に問題があっても、
亡失以外は門前払いの状況でした。
GFRの値は、小数点以下を切り上げます。
2)腎臓を失っていないもの
①腎機能が高度低下していると認められるものは9級11号が認定されます。
腎機能が高度低下しているとは、糸球体濾過値(GFR)が31~50 ml/分であるものを言います。
②腎機能が中等度低下していると認められるものは11級10号が認定されます。
腎機能が中等度低下している」とは、糸球体濾過値(GFR)が51~70 ml/分であるものを言います。
3)慢性腎盂腎炎と水腎症について
腎盂腎炎は、細菌の感染により腎盂腎杯のみならず、腎実質にも病変がおよぶもので、
交通事故受傷では想定され難いものです。
水腎症は、尿路通過障害の結果、腎盂腎杯の拡張と腎実質の萎縮、
腎機能障害をきたした状態ですが、清潔間歇自己導尿が広く行われるようになった今日では、
症例が激減しています。
症例ごとに、本件交通事故との因果関係を踏まえながら、個別に対応しています。
関連記事はこちら
- 冠動脈の裂傷
- 副腎の損傷
- 外傷性の胃の破裂
- 外傷性大動脈解離(がいしょうせいだいどうみゃくかいり)
- 外傷性横隔膜破裂・ヘルニア
- 外傷性胸部圧迫症(がいしょうせいきょうぶあっぱくしょう)
- 外傷性食道破裂(がいしょうせいしょくどうはれつ)
- 大動脈について
- 大腸
- 大腸穿孔(せんこう)、大腸破裂
- 小腸
- 小腸穿孔(しょうちょうせんこう)
- 尿崩症(にょうほうしょう)
- 尿管、膀胱、尿道
- 尿管外傷(にょうかんがいしょう)
- 心挫傷、心筋挫傷 (しんざしょう、しんきんざしょう)
- 心肺停止(しんぱいていし)
- 心膜損傷、心膜炎 (しんまくそんしょう、しんまくえん)
- 心臓・弁の仕組み
- 心臓、弁の損傷
- 心臓の仕組み
- 急性副腎皮質不全(きゅうせいふくじんひしつふぜん)
- 横隔膜の仕組み
- 気管・気管支断裂 (きかん・きかんしだんれつ)
- 特殊例 気管カニューレ抜去困難症
- 皮下気腫、縦隔気腫(ひかきしゅ、じゅうかくきしゅ)
- 神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)
- 管腔臓器 肝外胆管損傷 (かんがいたんかんそんしょう)
- 肝損傷 (かんそんしょう)
- 肺挫傷 (はいざしょう)
- 肺血栓塞栓、肺脂肪塞栓(はいけっせんそくせん、はいしぼうそくせん)
- 胃
- 胆嚢損傷(たんのうそんしょう)
- 胸腹部臓器の外傷と後遺障害について
- 脊髄損傷による排尿障害
- 脾臓(ひぞう)
- 腎臓
- 腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア
- 腹膜・腸間膜の障害
- 腹部臓器の外傷
- 膀胱の外傷
- 膵臓損傷 (すいぞうそんしょう)
- 膵臓損傷2
- 過換気症候群 (かかんきしょうこうぐん)
- 食道の仕組み
交通事故・無料相談 弁護士法人前島綜合法律事務所
【受付時間 平日】 10:00-18:00